単眼立体視


たまには片眼を閉じてテレビを見よう

 私たちが立体を認識するのは、普通「両眼視差(=パララックス)」によるとされている。それには、私も異論はない。だが「両眼を明けていないかぎり立体は認識できない」というのは、事実でない。時には片目を閉じてテレビや映画を見てみよう。

 やってみましたか?「片眼で見る世界は両眼の世界と全く違う」などと言われれば不思議だろうが、大多数の人にとって、片眼と両眼は違った世界のはずである。あまり変わらないという人もいるだろうが、両眼の視力の違いが大きく、普段から片目(よく見える方の目)だけで見ている場合は、あまり変わらない。近視がひどくなると、そういう状態になりがちだそうだ。

 実は私も最近右目の乱視がひどくなり、もっぱら左目で見ているので、あまり単眼と変わらなくなってしまったのである。

 対象が平面的な画像であれば、両眼で見ようと片目で見ようと、全く変わらない。映画やテレビのカメラが静止しているときは、平面的な画像しか撮ることはできない。カメラが定点にあって、ぐるりと回転する場合も同様である。ところがカメラが空間の中を動いているとき、具体的には電車の窓から風景を撮っているとき、カメラマンが手持ちカメラで、歩きながら撮るときなどは、片目で見ると驚くほどの立体感がある。

 もっとも、静止したカメラでも、カメラに対して動いている物体、たとえば人体などは、多少立体的に見える。

 いずれにせよ、両眼視で立体を捉えるには、左右の視覚像を統合する大脳の働きがあるのだろう。それがある程度完成した後は、単眼でも時差信号から立体を感じられるようになっているのではないだろうか。

 少し不思議なのは、風景の隅にある草むらなど、両眼で見ているとあまり凹凸がはっきりしない画像が、片目で見ると急に鮮明になる。こんもりした感じや、ところどころ草が突き出しているのが、はっきり分かる。

 もしかすると、これは私たちの中に猿の本能が残されているからかも知れない。猿は木から木へ飛び移るとき、突き出した枝などに非常に注意するだろう。わずかな見落としでも、けがや致命的な事故につながるおそれがある。そうしたことに特に敏感になる必要があったのかも知れない。

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