ここで紹介している曲
詩曲
シシリエンヌ
交響曲変ロ長調
愛と海の詩

















ミュンシュ/ショーソン交響曲、詩曲icon








デュトワ/ショーソン交響曲、協奏曲、「愛と海の詩」、詩曲他icon





レーピン/スペイン交響曲、ショーソン詩曲、ラヴェル「ツィガーヌ」icon


























デュトワ/ショーソン交響曲、協奏曲、「愛と海の詩」、詩曲他icon






























ミュンシュ/ショーソン交響曲、詩曲icon







デュトワ/ショーソン交響曲、協奏曲、「愛と海の詩」、詩曲他icon





































デュトワ/ショーソン交響曲、協奏曲、「愛と海の詩」、詩曲他icon


ショーソン


エルネスト・ショーソン(1855−1899)
画像はWikipediaからいただきました
 ショーソンは少年期から音楽の才能を発揮し作曲家を志したが、父親に反対され、その父との約束で法学を学び、弁護士になった。だが音楽への愛止みがたく、父の死後になって作曲を開始した。しかし不慮の事故で早死にしたせいもあって、活躍期間は短かった。交響曲1曲、オペラ1曲、交響詩や室内楽、歌曲などを残している。ワーグナー流の濃厚なロマンティシズムに傾倒したが、その作風は異なっていた。どちらかと言えば重厚よりは繊細な響きと打ち震えるような抒情性に特徴がある。永遠の青年といった風情だ。死因は子供たちと一緒に自転車で坂道を下っていたとき、スピードが出すぎてどこかに激突したものらしい。ただし子供たちも、父親の死の瞬間を目撃しておらず、詳しいことは不明である。

 幅広い教養を持ち、知識人たちが彼の家をしばしば訪れて交友を結んだ。自分でも有名なサロンに足を運んだようである。だがシューマンのような文学青年的な要素は案外少ない。美しい妻と可愛い子供を持ち、客観的には何の不幸もないように見えた彼の音楽は、言い知れぬ憂愁と青春の傷みに彩られている。


『詩曲』(「ポエム」と呼ぶこともある)

 ヴァイオリンと管弦楽のための作品で、ピアノ伴奏でも演奏される。冒頭主題は霧の彼方に街の姿がぼんやりと浮かび上がるようだし、最後は深夜に果てしなく続くトリルと共に消えていくので、どこか呪術めいた神秘的な印象がある。事実この曲には、霊を呼び覚ますといったオカルト的なプログラムが想定されていたらしい。

 オイストラフ(ヴァイオリン)=ミュンシュ/ボストン。ショーソン『交響曲』およびダンディの『フランス山人の歌による交響曲』とのカップリングである。オイストラフはまるで人声で歌っているかのようなヴァイオリンを弾いた。あまりにも情感がこもっているので、脂っぽい感じもないではない。そのためバロック音楽では不似合いに聞こえることもあったが、ロマン派音楽は絶妙だ。この演奏も熱っぽく、ところどころ天性の歌い口のうまさが聞ける。

 ジュイエ(ヴァイオリン)=デュトワ/モントリオール。左に挙げたのは、『交響曲』、『愛と海の詩』、『協奏曲』と代表作を網羅した2枚組のCDである。オケが表情豊かだ。ジュイエのヴァイオリンも繊細で入念な弾き振りである。このヴァイオリニストはかつてシマノフスキの協奏曲の演奏を聴いたとき、かなりの才能だと思ったことがある。

 レーピン(ヴァイオリン)=ナガノ/ロンドン響。レーピンの録音を集めた格安のセットにはいっていたもの。このヴァイオリニストは、かつてテレビCMでチャイコフスキーの『メロディ』を弾くのを聴いて、いっぺんでファンになった。独特の節回しというか歌い口が、オイストラフ以来ではないかと思う。非常に魅力のあるヴァイオリニストである。


『ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲』〜第2楽章「シシリエンヌ」

 ショーソン好きなら、おそらく誰でも第一に挙げる名作である。シシリエンヌと題されてはいるが、北の海辺にうち捨てられた舟を見るような、孤独感を秘めた美しいメロディで、一度聴けば忘れられない。後半ピアノが駆け巡り、クライマックスを築くところでは胸のすくような気分だ。全体は5分弱で、かなり短い(なおシシリエンヌはイタリア語では「シチリアーノ」、シチリア舞曲という意味である)。

 ショーソンの書くメロディはセンテンスが長い場合が多いので、大阪弁で言うところの「辛気くさい」感じがある。この「シシリエンヌ」は短めのセンテンスの連なりになっていて聴きやすい。第2楽章以外はやや魅力に欠けること、編成が特殊なため、あまり演奏会で取り上げられないのが残念だ。

 アモワイヤル(ヴァイオリン)、ロジェ(ピアノ)、イザイ弦楽四重奏団。フランクのヴァイオリン・ソナタが併録されている。やや音場が狭いようだが、どの楽器もよく聞こえる。テンポがなかなかいい。

 レ・ミュジシャン(パスキエ他)。併録は『チェロとピアノのための小品』。ピアノも弦も美しい音色である。チェロの表情は特に印象的だ。クライマックスでのピアノは音量が控えめに録音されているので、やや食い足りない感じはある。


『交響曲変ロ長調』

 主調は変ロ長調だが、第1楽章には3分以上に及ぶかなり長い序奏があり、そのほとんどが短調で書かれ、情熱的に盛り上がる。この序奏の主題は第3楽章の最後にもう一度帰ってくる。ここでのオーケストレーションは、もう少し重厚な響きにしようとしたのかも知れないが、高音楽器が強く出て、やはり繊細な色彩がある。だがパステル・カラー的な色調でなく、もう少し濃い色合いだ。水彩画的という表現もあり得るだろうが、それよりも少し濃く、しかも透明感もある。

 第1主題はどことなくゆったりと波が揺れるような印象を持ち、五音音階的に始まるが、後半は半音階的進行となる。序奏がなければ、交響曲としては中途半端な感じになっただろう。第3楽章の第2主題は「象さん」の歌によく似ている(リズムが全く違うのでそう感じない人もいるようだ)。

 ミュンシュ/ボストン。第一楽章はかなり速めのテンポで、一気呵成に演奏されている。熱気に溢れており、名演とされる録音だが、私の所有しているノーマルCD版は時々ステレオ感のなくなるところがあり、ヘッドフォンで聞くと気になる。ただしこれは廃盤になったらしく、左にはブルースペックの限定版を紹介しておく。

 デュトワ/モントリオール。新しい録音で美しい音に録られているが、なぜかあまり色彩の濃い感じはない。ややオフマイク(音源がマイクから遠い)気味のためだろう。演奏自体は良い。テンポも中庸で、第二楽章中間部の盛り上がりはややテンポを落として悠然と演奏される。


歌曲集『愛と海の詩』

 ショーソンはフランス歌曲の系譜において不滅の名曲を残している。濱田滋郎氏が「殉情の稟質」と言っているとおり、声を荒らげることのない、ひっそりとした抒情世界だ。悪く言えば「メソメソした」ということになるのだろうが、人間たるもの、時にはそうした哀傷に浸ってもいい。私はむしろ、それに共感できない人の感性を疑わしいと思いたくなる。感傷的と言っても、ベタベタドロドロしたものでなく、あくまで節度と気品を保つ中で、尽きることのない青春の憧れと哀惜が歌われ、当時の文芸にも通じていた教養人らしく、詩の選択も趣味が良かった。

 『愛と海の詩』は特に有名なもので、全体は3部から成り、第2部は管弦楽のみで奏される「間奏曲」となっている。第3部「愛の死」の後半部は「リラの花咲く頃」という単独の歌曲としても歌われる(この部分をピアノ伴奏版として先行出版したため)。曲は長調で始まるが、やはり短調の分量が多く、美しくも悲しい歌である。

 ロス・アンヘレス(ソプラノ)/ジャキヤ=ラムルー管。69年録音の名盤である。LPではカントループの『オーヴェルニュの歌』(13曲)とのカップリングだった。最もスタンダードな歌唱だろう。優しく美しく歌われている。少し管弦楽伴奏が引っ込み加減に録音されていて、もどかしく感じる。

 ル・ルー(バリトン)/デュトワ=モントリオール。バリトンで歌われているのは珍しい。ディジタル録音である。悪くはないのだが、この曲を男声で歌うのは、どうにも違和感がある。伴奏の管弦楽はなかなかいい。弦楽器は情感に満ちている。

 スーザン・グラハム(メゾ・ソプラノ)/トルトゥリエ=BBC。ディジタル録音である。グラハムはアメリカ人だが、フランス歌曲を得意としているらしく、事実ここではすばらしい歌唱を聴かせる。ロス・アンヘレスの優しく美しく、透き通るような歌とは少し違い、しとどに濡れる情感、果てしなく続く心の闇と迷いが表現されているように思う。他にラヴェルの美しい歌曲集「シェエラザード」(特に第2曲の「魔法の笛」が美しいと思う)と、ドビュッシーの「ボードレールの詩による歌曲集」が入っている。

 ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト)/ゼーデルグレン(ピアノ)。「リラの花咲く頃〜ショーソン歌曲集」というタイトルのアルバムで、最後の「リラの花咲く頃」だけがピアノ伴奏で歌われている。シュトゥッツマンがやっと探し当てた伴奏者と言うだけあって、ピアノも悪くない。歌唱は大歌手シュトゥッツマンなので、悪いはずはない。また、このアルバムにはショーソン歌曲のほとんどが含まれ、「果てしない歌」も入っているのが魅力だ。もっとも、「果てしない歌」は、かつてLPで聞いていた室内楽伴奏版の方が好きだ。パレナン四重奏団だったように記憶するが、CD化されていない。

 上記のうち、ル・ルー/デュトワ以外のCDは、残念ながらすべてカタログから消えているようだ。


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