『古事記傳』1−4


古事記の書名について(記題号=フミのナの事)

 「古事記」と名付けられたのは、「古い事を記した書」という意味である。書紀に飛鳥浄御原(あすかキヨミハラ)の宮(天武天皇)の御代十年に、川嶋皇子等十二人に詔(みことのり)して、「記2定帝紀及上古之諸事1」とある。この言葉は、「古事記」の書名と同じ意味であろう。この題号は、書紀のように国の名を言わず、ただ「古事」ということを前面に出しているあたり、意図が鮮明で貴い。異国のことを考えへつらうのでなく、ただ天地の極みである天つ神の御子の所知看食国(しろしめすオスくに)の歴史の他にないという心である。【撰者はそれほど深く考えた上で題名を決めたわけではないだろうが、自然とその意にかなっているのはめでたいことである。】大御国の歴史を学ぼうとする者は、いつもこの意識を忘れないようにしたいものである。また各巻の分け方も、漢籍を真似ず、ただ上巻、中巻、下巻と名付けたのは、いかにも立派だ。【巻ノ上、巻ノ中、巻ノ下と言うのは漢風である。また巻之一、巻第一などと言うのも漢風だ。それも一之巻、二之巻などと言うのこそ正しい。巻之一を「マキノついでヒトツ」、巻第一を読んで「ヒトマキニあたるマキ」などと読むのは、皇国の言葉からはほど遠い。】日本紀は「夜麻登夫美(やまとぶみ)」と読むのだが、古事記は訓があるとは伝えられていない。撰者の意図も、音で「コジキ」と読めというところにあったかも知れない。だが「夜麻登夫美」の例に倣って、「布琉許登夫美(ふることぶみ)」と読みたいところだ。上巻は「迦美津麻伎(かみつまき)」、中巻は「那加津麻伎(なかつまき)」、下巻は「斯母津麻伎(しもつまき)」と読むべきだ。


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