元素と化学分析の話


元素発見の歴史と化学分析
<分光分析>

1859年、キルヒホフ(1824〜1887)とブンゼン(1811〜1899)はブンゼンの考案した新型のガスバーナーを用いて、元素が燃焼時に出す発光スペクトルの共同実験をしていましたが、ふと「このナトリウムの黄色い炎を通して太陽の光を見たらどう見えるんだろう」という疑問が浮かびました。

そこで太陽の光を分光計に導き、その途中にバーナーを置いて太陽光がナトリウムの炎光の中を通るようにしたのです。すると、ナトリウムが発光するのとまったく同じ位置にくっきりと黒い線が現れました。発光するのと同じ波長で、元素はまた光を吸収もするのです。

この実験には2つの意味がありました。

実は太陽光のスペクトル中に、それまでも不鮮明ながらナトリウムの位置に暗い線が見えていました。太陽光スペクトル中の「暗線」は、これを詳しく調べたフラウンホーファー(1787〜1826)の名をとって「フラウンホーファー線」と呼びますが、その原因は不明でした。それが、太陽の中にナトリウムが存在するためだと分かったのです。この発見後、どんなに遠くにある星でも、分光学的にその構成元素を調べることができるようになりました。

現在われわれが「遠くの星にメタンが見つかった」などという知らせを聞くのも、こうした分光学的方法によっていることが多いのです。つまり「宇宙化学」の魁になった実験だったのです・ただしメタンを見つけるのは可視光線では難しく、赤外線などで見ます。

もう一つは、約100年後に金属分析の重要な手段となる「原子吸光」の原理を発見したことです。発光現象はよく知られていましたが、吸収される現象ははっきりしませんでした。もっとも、この現象が原子の外殻電子の軌道のジャンプであり、光の波長が電子軌道間のエネルギー差に相当することは約50年後、アインシュタインの出現後まで判明しませんでした。

もう少し詳しく言いますと、バーナー中でバラバラになっている原子種のほとんどは、まだ外殻電子が基本の軌道にあります。これを「基底状態」と言います。これにその原子が発光する波長の光を当てると、原子の一部はその光を吸収し、外殻電子は外側の軌道にジャンプします。これを励起状態といいます。すぐにまた原子は光を発して基底状態に戻りますが、その時に発する光はあらゆる方向に出ますので、結局光源からの光は散乱されるわけです。ですから検出器で光源からの光を測定していると、一定の減光が観測されます。

このとき、バーナー中に入った試料の元素濃度が高いほど、原子が光を吸収する確率が高いので、それだけ多くの減光が見られるわけです。 

この他、発光強度を測定する方法もあります。ナトリウムやカリウムのように、弱いエネルギーでも容易に励起状態になる元素は、原子吸光の装置でも発光強度で測定可能ですが、大多数の元素は基底状態のままなので、発光はほとんどありません。

しかし最近は高エネルギーを持つアルゴンプラズマ中で、多くの元素を励起状態にすることができ、発光強度によって測定することが可能になりました。ICP発光分光分析といって、普通は原子吸光よりずっと高感度で、金属分析の重要な手段となっています。

もくじ

1.古代の化学
2.錬金術の時代
3.近代化学の夜明け
4.原子説と分子説

5.分光分析

6.周期表
7.質量分析と素粒子物理学
8.有機化学
9.クロマトグラフィー
10.希土類元素



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